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下記設定での現代版二次作文です。小説だなんて、とてもじゃないですが言えませんです(´;ω;`)
素敵なタイトルはお題サイト様から頂きました。ありがとうございます!


「師匠! トンマンがっ、ト、トンマンが怪我をしたと」

 いくら私邸とはいえ、女人の居る部屋にノックもなしに飛び込んできた無礼な男を、ムンノは憮然とした顔で振り返った。
 問われたのに応える気がまったく感じられない雰囲気を察してか、肩越しから「たいした怪我じゃないですよ」とトンマンが控えめに添えた。
未だに肩を大きく上下させるピダムはその姿を見るなり、電光石火で彼女の足元に跪く。

「もう、大げさに騒ぎ過ぎですよ。少し、足を痛めただけな」
「トンマン! 無事だったんだな! 怪我したの足だって!? ど、どっちの足だ? あぁっ、トンマンの細い足首がこんなに腫れてるじゃないか!まったくなんでこんな無茶なことしたんだ!? いやそれよりもすぐ冷やさないと! 俺、冷却スプレー持ってくる!」
「……あの、もうお願いしてま」
「大丈夫、すぐ戻ってくるから! 」

 僅かにできた貴重な間を縫うように、諸々の追加分が届けられた。
 「ご苦労」と応じたムンノに、はっとして振り向いたピダムは、次にきょとりとした顔で首を傾げていた。
 (おおかた、私の存在をすっかり忘れていたに違いない)
 伊達にピダムの師匠やってませんねムンノさん。正解です。


「……でもさぁ、どうして急に師匠に手ほどきなんて志願したんだ? 俺が付いてれば、お前を危険な目になんて遭わせないのに」
「怪我をしたのは、私が未熟なだけです。…それに自分の身くらい、自分で守ってみせます」

 「でもピダムさんに心配を掛けたのは悪いと思っています。……ごめんなさい」と、素直にトンマンが頭を下げれば、キリリとした頬がわかり易いほどヘラリと下がる。
 音を立てて揺れる尻尾まで見えるような気さえして、ムンノはこの一件の根源である、この駄犬を教育してきた自身を内省した。
 

***
 幼い頃のあどけない残照がムンノの心を和ませる。

 ピダムが無理矢理引っ張ってきたきた女性がトンマンだと、一目でムンノはわかった。
 驚きつつも、互いの壮健に喜びが収まるのも束の間、再会を計画した当事者から堂々と宣言された内容に、更に驚きに言葉が出なかった。思わず横のトンマンの表情からも、初耳だったらしいが。まぁ、それはさて置き。

 トンマンは変化する肢体に合わせ、その内面までも大人の女性としての成長をゆっくりと、だが着実に積んでいた。
 可愛いながらも男勝りであった過去を思い出し、ムンノはその変化が微笑ましく、これからも見守ってやらなければと想いを強くした。


「ムンノおじ様、私、護身術を覚えたいのです」


 そのトンマンが挑むような目を向け、穏やかならぬ願いを口にした。
 現在彼女は後継者に相応しくあるべく己を研鑽し、内外に存在を示す手腕を発揮せねばならぬ、気の抜けない日々を過ごしている。
 その上並み居る派閥幹部達の人身掌握にも奔走し、と多忙を極める身であった。
 
 そこへきて、いったい何から身を守るのか…?

「相手は複数だと想定するのか? ならばお前の場合、攻撃よりも退路を確保した動きが必要になるが」
「仔細を申し上げずに不躾なお願いをして申し訳ありません。…その、相手は一人、です」

 物事をはっきり告げるトンマンらしからぬ物言いに、ムンノはまたしても首を傾げた。

「トンマン。私に、遠慮など何もする必要はない」 
「おじ様……。ありがとうございます。その、実は…」


***

 必要なものはすべて揃った部屋で、それでもピダムは甲斐甲斐しくトンマンの世話を焼いていた。

 赤みを帯びた足首に盛大に眉を下げ、その他に異常が無いかとしつこく確認している。
 その手の動きはセクハラだと言われかねないが、少しばかりの罪悪感の為に仄かな抵抗しかできずにいるトンマンを尻目に、ピダムの指は遠慮なく上がってゆく。
 ムンノの睨み+無言の圧力にも、ピダムはヘラリと「昔、師匠が教えてくれんだ」と先手を刺してくる始末である。……まぁ見たところ正しく触診はしているだろう。だが下心は透けて見なくともはっきりとした輪郭を露にしていた。
 
 ムンノは、今度は聞こえるように嘆息した。

「私は席を外す。…トンマン。これには言って聞かせて徹底的に行動で示さぬと、決してお前の意思は伝わらぬぞ」
「……はい、おじ様。御指導頂き、ありがとうございました」

 頷き合う二人には、確りとした疎通が見える。

 一人蚊帳の外に置かれたピダムは「何のことだ」と喚いていたが、結局ムンノはピダムと一言も交わさず扉を閉めた。
 あんな事を聞いた後では一喝だけでは収まらず、怒鳴り散らしてしまいそうだったからだ。 
 ---トンマンは、消え入りそうな声でこう言ったのだ。

「ピダムさんから触られないように、隙を無くしたいのです」


***

「なぁなぁ、師匠と何話してたんだよ?」
「ピダムさん、」

 居ずまいを正せば習ってくれるものかとトンマンは期待したが、「うん、なぁに?」とにこやかな緩い返事が返ってくる始末。
 仕切り直すのも面倒になる一方で、憎からず思っているピダムのその笑顔に、トンマンはやっと肩の力が抜けていく自分に気付いた。

(今なら、ちゃんと伝えられるかもしれない)

 男らしい節だった大きな手をそっと包み、そのまま己の頬へ乗せ、トンマンはにっこりと笑った。
 見開かれたピダムの大きな目が面白くて、トンマンの笑みが更に深まった。
 まるで吐いた息ですらトンマンの邪魔になるとでも思っているかのように、ピダムは息を飲み込んでいる。
 
「私は、あなたのことが、」
「う、うん」
「その…、好きか」
「俺も! 俺もだってあの日伝えたよな! だったら話は早いな、今から」

 あっさりと手を離すと、「なんで!?」と言わんばかりの顔を向けられた。
 
「……ピダムさん」

 声に冷ややかさが入るのは、もう仕方がない。

「私の話を聞く気があれば、最後までちゃんと聞いてください!」
「ご、ごめん! ホントごめん! 俺、つい嬉しくて…。今度はちゃんと最後まで聞きます。続きをどうぞ」
「ああもう…、」

 ソファの背にもたれた所為か、足首が痛んだ。ああ、そういえばと、トンマンは痛みを忘れていた自分に気が付く。ピダムの動く気配を感じたが、"待て"を続行中らしく、必死で言いたいこととしたいことを上目遣いで訴えている。
 そのじっと見詰めてくる双眸に、つい「大丈夫」と声を掛けたくなったが、ぐっと抑えた。
 無言の対峙が続く。
 更に続く。
 そしてトンマンは双眸を閉じ、静かに息を吐き出した。決意をもって、唇と心を開いた。

「確かに、私はピダムさん、あなたが好きです。……でも、これがどういう種類の感情なのか、私にはまだわかりません。けれど、これだけはわかります」

 ピダムの咽喉がごくりと鳴る。

「……ピダムさん。他の誰も、あなたの代わりには成れません」


 いつもは照れが先行して、何も言えずに逃げの一手で交戦し、まともにぶつかることすらしようとしなかった。 
 今まで男女の境など気にせずに過ごしてきたトンマンにとって、甘い恋など他人の話し。日々、己に課したハードルを乗り越えてゆくのに必死だった。

 だがそんなトンマンの前に初めて、異性を意識せざるを得ない存在--ピダムが現れた。
 
 彼に好意を示されて最初に感じたのは、女としての嬉しさよりもまず疑問や戸惑いだった。だからすべてを遠ざけたかった。
 浮ついた気持ちでいれば、己を認めようとしない輩に足元をすくわれてしまう。かといって彼の姿が見えなければ、無意識に目で捜している自分自身に腹が立つ。

 混乱する感情は、より不可解な感情を連れてきて、トンマンは何一つ思い通りにならない自身の心から、その感情を連れてくるピダムから、目を逸らすことばかり考えていた。
 からかっているだけかもしれない、自分のような粗野な女を、彼は珍しいと面白がって構っているだけかもしれないのだと。 

 けれどあの夜、軽口で告げられた言葉に嘘は無いと、啓示のような何かがトンマンに教えていた。
 真っ直ぐなピダムの瞳が熱を帯び、何故だかトンマンの指は震え出した。怖かった。ピダムが男だと、気付いてしまった。
 身体は心に従う。仕事を離れればまともに目すら合わせられなくなった己の隣で、少しだけ寂しそうに笑う横顔が辛かった。このままでは、いけないと思った。


「だから、もう少し時間をください。答えが出れば、すぐにお伝えします」
「いいよ、いつまでだって構わない。トンマンの好きにして。俺はもう、待つって決めてるし」
「ありがとうございます、ピダムさん…」

 はにかむ笑顔を見せるピダムに、トンマンもやっと微笑みを返した。
 色好い返事が貰えるとは限らないのだと、彼は気付いているのだろうか。
 だが考えてみれば、トンマンが告げるその日まで、ピダムが変わらないと保障する術は何処にもないのだ。そう思い至り、トンマンは自縛していた思考にやっと気付いた。
 変わらない昨日を羨む日がきても、今を重ねることで後悔しない未来が訪れるならば、もう何も怖くはない。


***

「あ、そうだ。その脚じゃ歩けないだろ? 痛みが取れるまで、俺が支えてやるよ」

 ピダムが嬉々としてトンマンの身体を抱えようとすれば、素早く的確に華奢な腕が"待った"をかけた。

「触らないでください。ピダムさんに触れられると、私は考えが纏まらなくなります。答えが出るまで、私に触らないでくださいね」
「なっ、なんで!? 確かに待つとは言ったけど、そんな条件聞いてない!!」

 三度も傷つくワードを出され、情けないほどピダムの眉は八の字に下がった。

「……その、ピダムさんに触れるときは、私から触れますので。それなら、待って下さいますか?」
「……わかった。我慢、する」

 一度決めたら絶対に覆さないトンマンの性根を熟知しているピダムである。
 何を言っても無駄だとはわかっていても、それでも未練がましくトンマンを見上げ、ピダムは小さく不満を口の中で転がした。
 そのとき、ピダムの髪に柔らかい何かが触れた。髪の流れに添うように、優しく上下するそれはとても、とても心地よかった。
 頬に掛かった鬢を寄せたその薬指を最後に、離れていこうとする気配がした。
 小さな手のひらを追い続け、ピダムは顔を押し付けた。

「かわいいですね」
「それは、女に使う言葉だろ?」
「いえ、ピダムさんも十分に可愛いですよ」
「可愛いも、綺麗も、俺はトンマンにしか使わないよ」
「……相変わらず、口がお上手ですね」
「本当だってば! 俺、トンマンにしか言ったこと無いし…! あっ、なんで撫でるの止めるんだよ!」



 激務に追われる最中でも、こんな風に過ごす他愛の無いこの日々を、彼らは愛しく振り返るのだろう。
 二人の想いがどのような結末を迎えたとしても、いつの日かきっと、優しくやさしく微笑みながら。
 


差し出されたその手には一片の打算もなく  end.


「なぁなぁ、夕飯何食べたい?」
「せっかくですが、姉が作っ」
「もちろん泊まってくだろ? あ、今日はもう使用人には帰ってもらうから、遠慮なんかしなくていいよ。トンマンに不便がないように、俺が全部サポートするから心配しないで」
「いえもう全然歩けま」
「んー俺としては麺類に絞ろうかと考えてるんだけど、この前の」
「だから話しは最後まで聞けと、何回言ったらわかるんですか!?」
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