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続きからは、出会ってから再会する間のお話です。
ミセンさん大活躍です。てかミセンさんとの会話で終始してます(汗
 くるくると片手に余る小箱を指で弄びつつ、足取りも軽くピダムは自室へ向かっていた身体を、反射的に反転したくなった。

「おやおや、『ヒョンジョン様』のご帰還ですよ。お前たち、もう準備はできているだろうな?」
「はい。ミセン様」

 「よしよし、」と大仰に頷く叔父を前に、相手のペースで会話をしてはいけないと思いつつも、手持ちの情報で「準備」に相当する事柄と言えば--

「まさか、今日、なのですか」
「……さすが察しが宜しいことで、こちらとしても手間が省けます。あと数時間で『18年の沈黙』が終わる時刻です。事のあらましは内相が告げるそうですので、インミョン様をこちらまでご案内して差し上げて下さい」
「何故私なのです。ポジョン辺りでも行かせては如何ですか?」

 皮肉を込めたピダムの頬に、ミセンも負けてはいなかった。こちらもピクリと頬を引き攣らせると、少し離れて控える者たちだけが内なる心情をありのままに顔に浮かべた。

「--血だ。お前がいくら否定しようとも、お前の母である『あのお方』でさえこの事実を否定なさろうと無駄なことだ。政から遠ざけられた今、尊き血統に心酔する者たちで王宮は成り立っている。それはよく知っているところだろう、ピダム。王宮で生まれるということは、それだけで意味を持つのですよ」
「その割りに、秘密裏に暗躍している噂をよく耳にしますが? 特に『あのお方』の」
「それは数ある慈善事業の一つです。お前ももう少しこの世を知れば、姉上の真意も理解できようというもの」

 ピダムは宮中の作法を無視し舌打ちすると、苛立ちのままに本題へと振った。

「で? 2年前にチョンミョン公女様を捕まえられなかったこの私に、今度は妹姫をモノにしろと仰るのですか? そしてゆくゆくはヨンス公を押し退け、王になれと? はっ、馬鹿げてます」
「ピダム、我々の野望を安く見て貰っては困ります。私たちの望む未来は国民皆の安寧、それだけですよ。その為にできうる限りの布石を打っているに過ぎないのです」

 高貴な血が流れようと、神聖な場であろうと、明け透けに見えるのは人間のエゴでしかない。ピダムは込み上げる怒りを隠した拳で抑える。
 浚われるように連行され、夢にまで見た母には息子だと認められず、笑顔の裏には自己保身しかない内相。処罰を恐れてか仕来たりなのか、本音どころか最低限の言葉しか発せぬ女官たち……。誰もが腫れ物に触るように彼を取り巻く。ピダムの双眸は日増しに荒んでいった。誰の言葉も信じられず、誰の心も必要としなくなった。

「しかしインミョン公女様は私との婚姻に、諾とは仰られないでしょう。生まれてすぐに身分を剥奪され、俗世に身を置かれた方です。とうに、お慕いされている方もいらっしゃるのではないですか?」
「あぁ、そこら辺は抜かりありません。なんせ15のときまでは公共の場には--まぁ、学校へ行けば護衛にも限界がありますからねぇ--行かずに、すべて家庭教師に任せていました。そして、この国最高の教育機関である学び舎に入学されました」
「……ですが、それは男子校では……」
「そうです。特例で認めさせました。規律正しく勤勉な生徒たちばかりです。恋愛などする暇も隙などもありません」
「……それはまた、興味深い経歴を持つ女性ですね。お会いできるのが楽しみになりました」
「何を仰るのです? もうすでに会っているではありませんか」
「は!?」
「人の途絶えた駐車場、動かないエンジン、通じない携帯。……私は意味のないことは、しない主義なのです」
「--まさか、」
「ええ。ですが勿論、『彼女』が話し掛けるかどうかまでは、私たちの与り知らぬところでした。互いに肩書きのない身としてならば、相手をよく見られるでしょう。これは私なりの誠意ですよ、『ヒョンジョン』」

 ピダムは少しだけ、真名を好きになれそうな気がした。そして少しだけ、ほんの少しだけ、この叔父を好きになれそうな気がした。 

「さて、宜しいですか? いつものように冷たくあしらって、態と振られるようなことを画策なさらないで下さい? この婚姻で得るものは大きいのです。私の為にもインミョン様をモノにして下さいよ」
「ますますやる気が薄れます。その口をすぐに閉じてくださいませんか? 叔父上」

 ピダムがおどけて肩を竦め、ミセンもまた、ニヤリと笑ってみせた。


僕の爪先に春が触れた 中篇  end.
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