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勢いです。勢いって本当に凄いですねー…。
以前から妄想はしてたのですが、素敵な小説を立て続けに拝読致しまして、この二人がふわぁぁっと脳内を駆け巡りました。
あぁでも本当に、ドラマ設定って難しいですね。仕来りとか言葉遣いとか、あわあわするばかりです。

すっごく拙いです。
すっごく拙いですが、せめて僅かな間でも日の目を見せて下さい(滝汗

 
 ピダムは僥倖とも言うべきこの状況に、抑えても抑えても沸々と湧き上がるものを、幾度も噛み締めていた。
 辺りに警戒を払いつつも、そっと蝶を閉じ込めるかの如くの繊細さを持って、触れた指に力を込めてみた。それでもトンマンは何も言わず身を任せている。
 夢にまで見たトンマンが、この腕の中で息をしている。
 月明りに四散する吐息まで愛しくて、ピダムはその華奢な四肢に己の熱を分け続けた。


***

「清遊に行きたい」

 ”勉学に励み、教養を深める”とのお題目の元、今日も今日とて花郎としての肉体方面の鍛錬はさっさと終えたピダムは、いそいそとトンマンの許へと爪先を向けた。
 そしてやっと見つけた主に、開口一番に言われたのがこの台詞であった。

「…では、輿を手配させます。行き先はもう決められてらっしゃいますか? でしたら先触れを伝え、警護の者に--」
「……もういい」

 ぷいっと頬を膨らませ、在らぬ方を向かれてしまった。
 そんなトンマンの子供じみた態度に面食らいながらも、どこかあどけなさの残った可愛さを覚えつつ、けれども機嫌を損ねた原因を追究する。なるほどピダムは、空気を読める有能な男であった。

「公主様、では輿ではなく馬を手配するように致します。ですが、」
「今晩、亥の刻に私の元へ来い。わかったな、ピダム」

 耳元を甘く擽る吐息と、ぶつかるほどに間近で見た頬の滑らかさに、くらりとしたものを感じつつも、咄嗟にピダムは「畏まりました」と低頭した。「このことは誰にも言うな」との念まで押されてしまう。
 --これはまさしく、二人だけの秘密の逢瀬ではないか…!!
 だが、あのトンマンである。彼女が一体何を考えているのかわからない以上、警戒は緩められない。
 それでも桃色に染まるピダムの背後から、舞い踊る花たちは止められないらしい。
 無言で伺う女官たちからすれば先ほどのトンマンの行為は、ピダムの胸倉をわっしと掴んだだけの、色気とはかけ離れたものだったのだが……。

 果たしてピダムが対面した愛しい人は、数刻前と同じ姿のままであった。
 しかしその腕には、確りと鈍色の麻布が収められている。悪戯っ子のような笑みを見せるトンマンに、何故己が指名されたかを彼は天を仰ぎつつ察した。 
 「清遊」は、「遠乗り」との便宜上のものだったらしい。
 それでも、他意ではなく「単身で騎乗するなど絶対に認めぬ」と語尾を強めたピダムに対し、「では、相乗りならばいいだろう」と負けじとトンマンも胸を張る。
 --相乗り。
 トンマンと、相乗り……。
 それならばピダムとて、吝かではなかった。


***

「まだ冷えますか? 掛布をお持ちいたしましょう」
「……いい」

 気だるげに首を振った拍子にちらりと覗いた白い首筋に、またしても不埒な想いが過ぎり、ピダムは「平常心、平常心…」と胸の内で呟く。

「……済まない。私の我侭で、お前に迷惑を掛けてしまった。私は、こんな自分が腹立たしい……」
「そんな! 何を仰るのですか、公主様のご多忙さは皆が知るところです。丁度良いではありませんか。この機会に、ごゆっくりと養生なされては如何ですか? 公主様の為された善政は、少しばかり目を離したからと、消えるものではないでしょう。--知識を得ることは、選択が広がるということです。民の暮らしも変われば、民の心も変わってゆきます。……あぁそれに、私に気遣いなど無用です。こうして椅子代わりなり、何なりとお役に立てれば、私はそれで幸せなのです」

 項垂れていた顔が上がったかと浮き立てば、長い睫毛に縁取られた双眸に、まじまじと凝視されてしまった。……何か拙いことでも言ってしまったのだろうか。
 ピダムは何か言わなければと、会合での民の会話を手繰り寄せてみる。

「実際--」
「ピダム、」
「はい、公主様」
「うん、話の腰を折って済まない。……だが、お前はそう信じてくれているのか? 私の為してきたことは、民の暮らしにとって良き手助けになっていると思うか?」

 弱弱しく縋るように、まるで懇願でもされているように見上げられる眼差しに、ピダムはトンマンの心労の深さを思い知った。
 『己を信じ、己の行く道を信じろ』なるほどユシンらしい鼓舞だ。だが、自ら覇道へと向かうこの細い肩の、幾許かの慰めには成り得たのであろうか。
 ピダム自身には、神国の民など取るに足りない存在でしかない。
 けれども、この愛しくて止まない人が「大切だ」と言うから。護りたいと願うから、彼は望んでこの場所を選んだ。

「……酒屋で公主様は何と呼ばれてらっしゃるのか、教えて差し上げましょうか?」

 無言の唇に、早くとせっつかれる。ピダムの目蓋の裏で、あの喧騒が蘇ってきた。

『恐れ多くも下賜された鍬で荒地を拓き、種を蒔き水を撒き続け、初めて芽が出たときの喜びが、お前にわかるか?』
 年老いた男の、その眦が濡れているのは、酔いの所為だけではないであろう。
『俺たちがどれほどあの土地を耕そうとしても、すべてが無駄に終わっていた』
 そうだ、そうだと矢継ぎ早に入る合いの手たち。どの声も、舐めてきた過去の苦境が垣間見える。
『トンマン公主様は、荒地に恵みを齎してくださった女神様だ。税で搾取されるんじゃない、俺たちは公主様にお礼として上納するんだ!』
 一往に沸き起こる歓声。皆が皆、その眦を柔らかく細めていた。

「--根付いている公主様の志も、確かに在るのです。……お気づきになってらっしゃらなかったでしょう?」
「……あぁ、……あぁ。…そうだな。ありがとう、ピダム」
「まったく。公主様ときたら、私が注意して差し上げたことまで、お忘れになられたのですか」
「…え!? な、何のことだ?」

 もう一押しとばかりに、茶目っ気を含ませた顔で、今度はピダムからその顔を覗き込む。瞠目したトンマンが見せてくれた焦りは、とても可愛らしいものだった。 

「すまないも、ありがとうも、公主様には不要な言葉です。私は望むまま言動しているに過ぎません。あぁ、前回は断られましたが、針でも打って差し上げましょうか? 血の巡りを良くするツボは、この辺りです」

 後ろから抱き締める呈でもって、ピダムは大胆にも細腰を深く懐に収める。次いでその小さな掌を両手で包み込み、親指で軽く押さえた。
 てっきり「離しなさい!」と拳の一つでも飛んでくるかとのピダムは予想は覆される。
 緊張を残したトンマンの肩から力が抜かれたかと思えば、たおやかな背中ごと、柔らかく倒れ込まれてしまった。
 
「今、お前は椅子なのだろう? ならば、大人しくその役目を果たせ」

 そこには身を捩り、肩まで震わせ笑っている顔があった。
 無防備に預けられた、胸を占める愛しい重さ。なんと尊く、なんと愛しい命なのだろう。
 ピダムもまた、白い歯を見せにこりと応える。

「拝命致しました、公主様。では、ここは目に繋がる箇所です。あ、筋が張ってますね。もしや、また夜更かしなさっているのですか?」
「痛っ、くない! ちゃんと寝ている!」

 本当に? という視線は、きちんとトンマンに通じたらしい。

「……その、気になることがあると眠れなくなるから……、それを確かめてから、ちゃんと寝てる」
「睡眠不足からも、眩暈は起こります。この御様子では、夕餉も抜かれることも多々おありでしょう。これは貧血に良く効くツボです」

 ピダムはもう疑問符を付けなかった。
 下馬した途端、立ち眩みを起こしたこの細い身体を前に、どれほど心臓が凍ったと思っているのだ。幸いにしてすぐに「もう平気だ」仰って下さったが、少しはあの痛みを、御身がどれほどの存在かをわかって欲しい。
 ピダムは尚も、小さな手のひらを執拗に追い掛けた。

「痛い、痛いってば、ピダム! もうちょっと私の身体を労われ。優しくしろ!」
「この痛みこそ、私が公主様に向ける最大の労わりです。公主様。どうぞ、ご遠慮なく堪能されて下さい」

 不満を訴えながらも、ピダムの胸に身体を預け続けるトンマンのその横顔には、哀しみの欠片はもう見えない。ピダムは弓なりの双眸で、こっそりと安堵の息を吐いた。

 腕の中の肢体を温めるように、その心までを冷たい風から護りたい。トンマンが希う温かい場所で、この笑みをずっと見ていたい。
 その為ならば、--この命を護る為ならば、どんなことでもできる己がどこか誇らしかった。 


冀望を指す爪先  end.



希望を、冀望とも書くそうなのです。
で、その語彙がいいなーと思ったのでこちらを使わせて頂きました。

[冀望]
未来に希望を感じる土壌
大切にしている願望
欲求への特定の気持ち
望みをかける特定の場合
ある欲望が貫徹する一般的感情

色々と穴があると思います(滝汗
ドラマ設定はすんごく難関ですが、楽しく書かせて頂きましたv
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