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現代設定ですが、年齢的にはトンマンは18歳くらいの、あどけなさの残る女性を想像してます。
あ、これは前回のものとはまた違うものでして、お試し短編です。
申し訳ないくらいに、出会っただけです。


「あのっ、すいません!」

 あぁ、またかと、振り返るもの面倒になったピダムは、片眉を鬱陶しげに持ち上げた。
 それと言うのも、彼はこの台詞の後に続く同じ言葉を、数えるのも馬鹿馬鹿しいほど繰り返し聞かされていたのだ。
 『後腐れの無いよう女を追い払うのも、ほとほとうんざりしている』と本気で呟くピダムにとって、その恩恵に与ったことのない男共の呪詛など、よそ風にも満たぬ戯言でしかない。--まぁ、彼の弟君ならば苦笑しつつも頷いたであろうが。

「不躾に声を掛けてしまって、申し訳ございません。実は、その…、車のエンジンが掛からなくなってしまって……」
「……で?」

 ピダムには、この女の魂胆などすでにお見通しであった。
 ①保険屋を使ったことがないと嘯き、お礼がしたいと連絡先を聞き出される。
 ②そもそもトラブル自体が嘘で、エンジンが掛かった後に、以下同文。
 ③トラブルが本当だとして、素人が覗いてもわからないであろうエンジンルームをそれでも調べさせて、「お手数お掛けしましたぁ」と、以下同文。
 第一、タクシーで帰宅すれば済む話ではないか。
 ここは幸運にも高級百貨店の駐車場だ。もう閉店間際であるし、このまま明日まで置いても何ら問題は発生しないだろう。
 ……まったく、女ときたらほとほと自分の手は汚したくないらしい。
 すべての根源たる不敵な笑みが浮かんできた脳内に、ピダムは思わず舌打ちした。

「……その、これがどういった症状なのか知りたいのです。車に詳しい男性の方なら、お訊きできるかと思いまして……」

 肩越しに話を聞き、推論③だな、と女から背を向けたピダムは、無感動に結論を出した。

「……悪いけど、急いでるんで」

 再び一瞥し、必要最低限の反応で、当然の如く彼は立ち去ろうとした。

「あのっ、お忙しいのに呼び止めてしまって、すいませんでした。どうもありがとうございました!」

 進めていた脚が止まり、ピダムは思わず振り返った。
 大抵の女であれば、皆聞こえぬように悪態を吐くものだ。今までもそうであったし、これからもずっとそうだと思っていた。
 そんなピダムにとって、己を見送るべく出された声は、まったくの予想外の言葉であった。
 固まった彼をどう思ったのか、彼女はもう一度「ありがとうございました」と低頭までしているではないか。

「……いや」

 小さく吐いたのは謝罪か弁護か。
 一体何に対してのものなのかさえわかっていないピダムは、それでも得体の知れないむずがしさに、無意識に身を捩る。
 
 このまま放っておいても、別に一人で大丈夫だ。
 大した問題じゃない。
 どうせすぐに誰かがやって来て、修理でも何でもするだろ。
 ……そしたら、彼女はまた感謝の言葉を繰り返すのだ。
 真っ直ぐな柔らかい眼差しで、心地のよい声で。
 嬉しそうに、何度も何度も繰り返すのだろう。
 --俺以外の、男に。

 最後に出てきた感情に首を傾げつつも、気がつけばピダムの脚は、目的地ではなく逆を向いていた。

「なぁ、キーは? 挿してあるのか?」

 間近で捕らえた双眸は美しく澄んでいて、この眦が緩まった顔をもう一度見たくなったピダムは、肩の力を抜くように口端を上げてみる。
 釣られてか、彼女も控えめに微笑を返してくれた。
 --もっと笑った顔が見たい、何をすれば声を上げて笑ってくれるだろう。
 またも飛び出てくる理屈に沿わない、ふわふわとした思考をそのままに、ピダムはもう一歩彼女に近づいた。


僕の爪先に春が触れた  end.



一応この先も考えておりますが、「その展開、どっかで観たww」と言わせる気満々です。
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