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2014.07.07 銀砂幻晶
七夕ですねー!今ようやっと雨が止んで虫の声が聞こえます。
七夕ですねー(2回目 ……ええ、そうです。ピダムさんの誕生日です。
何かしたいわーと、昔書いたこんなのがありました。えっ2年前!?∑(゚ω゚ノ)ノ
ちょこっと加筆修正しております。再録的な形ですが、よろしければどうぞー(*´ェ`*)っ旦~


 

 とさり、と何か軽い物が落とされた音がした。僅かな金銭すら持たぬ子供だとて、否、子供だからこそ狙われたのだ。たぶん市場にいたときに、目を付けられていたのだろう。物取りだと推察したピダムは、間もなく襲い来る敵を見極めようと、粗末な小屋の戸を自身の目と耳に転じさせた。僅かな殺気すら漏らさぬ気配に、ピダムの背を冷たい汗が伝う。それとも師からすれば、殺気を感知できる能力がピダムに未だ備わっていないということであろうか。……留守一つも守れぬなどと、思われたくはない。枕元に忍ばせた短刀に手を伸ばす。そして意を決して戸を開いたその刹那、ピダムは飛び込んできた情景に目を疑った。

 降り注ぐ月の雫で織られたかの如く真白い衣。その上には、天上に咲くのであろう植物をなぞらえた金糸が隅々まで華を咲かせている。胸元から覗くのは、その衣よりも光を放つ白磁の肌。艶やかな黒髪が風に舞う粉雪を纏えば、それはピダムが見たこともない金細工へと変わった。伏せられた長い睫毛へも、月灯を砕いた銀砂が音もなく降り注ぐ。同じ人だとは思えぬ、とても美しい情景だった。


 目覚めた女は静かにピダムを見上げた。粗末な小屋の、簡素な敷き布に横たわっている事実に慌てる素振りすらない。その眼差しは、深く温かい色をしていた。その視線の意味を、ピダムがわかろう筈もない。「見ず知らずの私を、お前が救ってくれたんだな」女人にしては愛想のない言い回しだが、不思議とピダムには心地よかった。

 「お前が、私に好きな名をつけろ」どこか楽しげなその声に考えに考えて、ピダムはソリと決めた。「雪姫か? 私には勿体無い名だな」驚いたような表情に、ピダムの顔が曇った。気に入らなかったのだろうか。それならばと、彼は最初に浮かんだ名を告げようとした--が、なんとなく口を開く気になれなかった。言葉を失ったピダムは俯くしかない。どうして会って間もない女人をここまで気に掛けてしまうのだろうか、という疑問は微塵も浮かばなかった。

「ありがとう。良い名をくれたな」女は、--ソリは、ピダムへ笑顔を見せてくれた。
「当然です! なんたって、私が名を贈って差し上げたのですから!」

 心をざわつかせた不快感は、すぐに消え失せた。もっと、ソリの笑った顔が見たいと思った。

 ピダムがソリに付けようとした最初の名は明月だった。けれどミョンオルとしたならば、天を恋しくなったソリが還ってしまいそうで嫌だったのだ。ピダムは冷たい水を絞り、再びソリの額をそっと拭く。「……ありがとう」ゆっくりと開かれた瞳は、苦悶にしっとりと濡れていた。だがそれは、小寒の短い陽を一杯に浴びる水面のような穏やかな色で、ずっとこのまま見ていたいとさえピダムに思わせるものだった。

 やはりソリは、本当は天女様なのだ。ソリは、ピダムが美しいと思うものをたくさん持っている。「お前は本当にやさしい子だな」頭を撫でてくれるソリの手に、思わず触れてしまった子供の指は咎められなかった。「お前が触れてくれるだけで、痛みが消える」そうしてピダムの手をそっとを包んでくれたそれは、彼が唯一触れても良いものと比べ、細くて柔らかくて、とても小さかった。

 ソリの吐く息は浅く短い。ピダムの師、ムンノならば必ずやソリの病を好転でき得る術があるだろう。だが、明日にならなければ戻らない。蓄えてある薬草をありったけ使っても、今のピダムにはもうこれ以上すべきことが見つからなかった。額の汗を拭き、すぐ熱を帯びる布を取り替える。苦悶が浮かぶ眉に、ピダムのそれも知らず寄った。

 けれど、--けれどピダムはこうも考えていた。このまま病が治らなければ、ソリはずっとここに居るしかない。ならば、ずっとこのままソリと一緒に居られるかもしれない。ピダムは少し穏やかになった顔を、まじまじと見詰めた。燭台の揺れる小さな灯りよりも、その横顔は光を従えていた。ピダムは確信を深めた。ソリが落とした羽衣が、きっとどこかに落ちているだろう。夜明けを待って、探しに行かなければ……。この美しいものを、地上へ縛り付けてしまおうと考えていた。

 この一刻だけで、何度もソリは「ありがとう」と口にした。余りにも言うものだから、「私がしたくてしてるのだから、礼など言わなくてもいいんです」と、どこか乱暴にピダムはまた薬湯を掬った。「……私に礼を言われるのは、嫌か?」どこか沈んだ声。「そんなことあるはずないでしょう!」ただ、少し擽ったい心持ちなのです、とピダムが正直に吐露すれば、柔らかな声と待ち望む笑顔を見せてくれた。
 鷹揚にピダムは頷きはしたものの、そのあとの夜闇に吸い込まれていった言葉は小さくてよく聞き取れなかった。何を言ったのかが知りたくて再び口を開きかける前に、ソリがこう続けた。

「私はな、私を助けてくれるお前の心を感ずるたび、こうして礼が言いたいんだ」

陽溜りに笑みが咲く。ソリが笑った顔を見るだけで、ピダムの心に温かな熱が満ちる。……しかし今、ソリが彼に伝えたものは、嬉しさだけではないと感じた。ピダムはそのもやもやとするものを掴み、ソリの中から放り投げたかった。
けれど小首を傾げてゆったりと微笑む顔に、結局ピダムは何も言うこともできず、ソリに釣られるように微笑みを返したのだった。


 ピダムの左半身は凍りついてしまった。「どうした? 隙間が開くと冷えるだろう」引き寄せられ、鼻先と頬がソリの熱に触れる。ピダムの躯は、春の花を思わせる仄甘い香りに包まれた。背中に回された腕に、髪を梳いてくれる指に、どうしてだかピダムは泣きそうになる。こみ上げる熱を振り払うように言った。

「ソリさま、女人が軽々しく男と同衾なさってはなりません!」
「……何故、私に敬称など付けるのだ。私のことが嫌いなのか」
「そんな訳ないでしょう!」

 数時間前と同じ問答が繰り返される。どこからその発想に至ったのかがわからない。への字に曲げられた唇は、その顔をよりあどけなく見せるのだというのに、増々ソリは止まらない。

「お前が付けた名で呼べ。お前がどこへ逃げようと、私は絶対に捕まえてやるからな」

 「まさかお前は、病人の些細な我儘も利けぬほどに狭量な男か?」ピダムが口を挟む間すら与えられない。
 「ほら、お前も腕を回せ。お前の年頃で女と同床するなど、男として名誉なことだろう」本当に先程まで匙すら持てなかった病人だろうか。恐る恐るまわした腕で感じる背中は思った以上に薄かった。
 子供と、男と、それ以外が女人。母を知らぬピダムは己の年齢でその境界を探っていた。柔らかい温度、あたたかな心地よさ。女に近づくなとの師の厳命は正しかった。


 別れは、出会いと同じく突然だった。
 嫌な予感はしていた。やっと起き上がれるようになったソリが「外の景色が見たい」と言ったのだ。押し問答の末、月光の消えた今ならば大丈夫ではないかと、ピダムは戸を僅かに開けた。細長い青空は、透明に澄んだ水色に小雪がちらついていた。雪はピダムとソリの間をも、ふわりふわりと舞う。時折冷たい風が頬を撫でる。病人には毒でしかない。

「もう、よろしいですか?」
「うん、ありがとう」

 ソリの決まり文句なのに、何故かピダムの胸を冷たい手が触れたように感じた。陽は差し込まぬはずなのに、白の光がソリの輪郭を歪ませてゆく。ゆらりと震える己の手を見遣り、ソリは哀しげに笑った。

「お前のお陰で痛みが消えた。寂しさが消えた。私はな、ピダム。お前が思っている以上に、お前を愛しているよ」
「ならば…! 私を好いてくださるのでしたら、どうして傍に居てくださらないのですか? どうして私を置いて往くのです! ソリは、私が拾ったのです。拾った命は、拾った者が最後まで責任を負うべきではありませんか…!」
「あぁ、そうだな。待っていてくれ、ピダム。必ず私は--」


 目が覚めたピダムは、寒さを感じなかった。暖かいとすら感じた。

「戻ったぞ、ピダム。留守中、何もなかったか?」

 諾、と応えかけた弟子を見て、ムンノは朝陽に照らされたその頬に手を伸ばした。

「怖い夢でも見たのか? 泣いているではないか」
「……わかりません。まったく覚えていないのです」

 記憶の仄甘い残滓は、身を竦ませる北風に飛ばされていった。どこかそれを追うように目で追いかけたピダムは、師の呼び声に慌てて飛び起きた。




(目を覚ます刹那に見た夢は、とてもやさしくて)


同じ世で生きるふたりの渡る夢だとしても、違う時間軸を生きるふたりだとしても、いやもう言ってしまえば姿がいくら変わろうとも魂の部分で惹き合うふたりは互いに手を伸ばしているのではないかという妄想を詰め込みましたv
今回こんな書き方をしましたが、読みにくかったら言ってくださいね。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます!


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