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こんばんは、六花です。
今回もまた短いです。ドラマ基準でして、トンマン、ミシルと直対前の夜の出来事です。

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作中に出てくる簪はこんなイメージ

げんさん、お祝いコメさんありがとうございます!
次回、お礼を言わせてくださーいv
そうそう、これは犬の十戒を元に書いたんでした。そのときもげんさんにツッコまれたんでしたよねw






(私が死ぬとき、お願いです、傍にいてください)



最後の問いに問われた者が立ち去れば、後には夜の静寂さとは程遠い思考の雑音が残された。より一層口と心を重くするピダムへの疑念を、トンマンは下げる視線で持って押し留めた。

「公主様」

空耳かと気を向ければ、そこには今まさに思い悩んでいた男が佇んでいるではないか。
トンマンが目が合わせれば、彼は口端だけをそっと上げた。 それは微笑んでいるようでも、けれども泣いているようにも見えた。

「……どうした、ピダム」

動揺をおくびにも出さずトンマンは慎重に切り出すと、彼はおもむろに白絹で丁寧に巻かれた細長い包みを一つ、懐から取り出した。
白椿が一輪描かれているそれは、随分と皺を寄せている。幾分前から持っていたのかと、伺わせるものがあった。

「ミシルの首も持てず公主様の元に上がった厚顔な私ですが、……一つ、公主様に受け取って頂きたいものがございます」



(そしてどうか、覚えていてください)



ピダムの無骨ながらもすらりとした指を渡すように、その簪を震えぬようトンマンへと差し出した。
装飾具にまったく興味のないピダムとて、日々囲まれていれば嫌でもその審美眼は磨かれるものだ。日毎公主の身を彩る女官たちから見れば、質素で粗末だと一笑に付すだろう。玉体を飾るには相応しくないと、包を解く前から一蹴されてしまうに違いない。
ピダムの予想のとおり、灯籠の炎を吸い込んだ銀細工よりも白く輝く頬の持ち主は、無言の内に眉を顰めていた。

「私の選んだ品が、公主様に相応しくないとは承知しておりますが……」

沈む声を振り払おうとして、失敗した。彼は涙のない顔で笑っていた。月灯は褐色の肌を青白く変え、頬を流れる黒髪が眼差しの陰を濃くする。
やはり己は、唯一この闇の中でこそ生を許されるに違いないのだろう。生を否定された女から産まれる筈のなかった命。必要とされない、誰も望まれなかった命。ならばもう、何も求めなければいい。
--けれどまた、あの女は俺に「行け」と言った。
瞬きの間に浮かぶ残像を追い掛けてしまう自分がいた。わからなかった。どうしてあの女を「母」と呼ぶたびに、こんなに胸が締め付けられるのか。
いっそ何も知らなければ良かったのだろうか。付けられた名も知らず、父と母の名も知らず、ただ、……ただ、彼女の傍に……。この陽光よりも眩しい人の傍に居られたら、それだけで良かったと……。

ピダムは何を詮なきことを、と馬鹿げたことを本気で考える自分を嘲笑した。乾いた声が虚しく散れば、トンマンのあの真っ直ぐな眼差しが闇に浮かぶ。

忘れもしない、初めて花郎衣裳を身に纏った日だった。
「あぁ、やはりお前は黒が似合うな」見上げられた顔に、ピダムは気恥ずかしさよりもトンマン自ら整えたのだったのかと驚いた。「お前は私の花郎なのだから、当然だろう」何を当たり前のことを……と、トンマンは偶に見せるきょとんとした表情で首を傾げていた。
それから幾日か後に、市に立つピダムの姿があった。玉も碧も彼の目を惑わせたが、手に取ったのは二つの花とその間にまた小さな花をあしらった白銀の簪だった。トンマンの艶やかな黒髪が流れば、この蕾も共に揺れるのだろう。
そして鍵付きの箱に仕舞った。今度こそ、トンマンの生を受けた日を祝う為にこれを渡そうと。
あのときのようなあたたかな眼差しを、ピダムは夢見ていたのだった。

「見ろ、ピダム」

トンマンの繊手が白い花冠を空に翳せば、今度は星たちよりも冴えた光を放つ。その銀色が夜の淵よりも黒く流れる豊かな髪に添えられた。

「どうだ、似合うか?」

トンマンはあの真っ直ぐな眼差しでピダムを見て、少しだけはにかむように笑った。生気のないピダムの顔に、漸く血色が戻る。
受け取ってくれた。それだけでピダムは明日を生きて行ける気がした。そして同時に、死んでもいいと思った。



(私がずっと、あなたを愛していたことを)



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