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前回の続きです。
入れられなかったエピは、また追々書けたらなーと思います。

急に下げてしまってすみませんでした。
コメントをくださったMさま、Uさま、Hさま、お待たせいたしました。
それから拍手を押してくださった方、とってもありがとうございます。
皆さまから、やる気スイッチを頂きましたーv



ピダムとの再会を決意して見上げた空。
同じ季節。あのときと同じ色。
(このまま、何もなかったように過ごせるのなら……)
何度も自答した問をまた繰り返してしまったと、トンマンは自嘲した。

--あなたの為にできることを。今の私ができる、最善のことを。

ピダムのやさしさに甘えていた。
チャンスを乞うた自分に、ピダムは時間を与えてくれたのだ。--己の立ち位置を悟ることのできる、時間を。
そう決意を秘めたものの、いまだに震えそうになる。その躯を叱咤して、トンマンは落ちてくるエレベーターを睨みつけた。

軽やかな到着音。
開かれる扉。
その向こうにはトンマンが望んだ男--と、件の女性がいた。

「……っ!」

会話を重ねる二人を認めた。
トンマンの時間が止まる。
真っ白になる思考。
ピダムが顔を上げた。
凍りついた躯は、もがくように逃げ出していた。

「待て、トンマン!」

社内を行き交う人々の奇異と好奇を混ぜた視線を背中に貼り付け、ふたりは豪奢なフロントを駆け抜ける。
音は消え声は潜まり、大理石の床を踏み鳴らす硬い靴音たちがこの場を支配した。
けれども跳ね続ける鼓動と荒くなる息だけが、今のトンマンのすべてだった。

ガラスの扉から、眩しい秋の日差しが覗いている。
その扉を開ければ、望んだ場所へ行けるのだ。
誰も縛ることのない、誰にも縛られることもない世界へ、
もう少しで、
あと一歩で、
手が、--届いた。

その爪先が触れるその刹那、トンマンの腕が強く引き込まれる。
その引き戻される勢いの侭ピダムの胸にぶつかってしまえば、そのまま胸の中に閉じ込められてしまった。
背中を強く引き寄せる腕に希望を抱きそうで、嫌になる。
距離を取ろうと、必死に腕を伸ばした。手首を掴まれる。鼻をついた変わらない香りに、胸の奥が締め付けられた。

「手を、離して」

声は震えていた。俯いた侭、首を振り続けることしかできない。

「なんでもないの、……ほんとうに、なんでもないから」

こんな自分が情けなくて、こんな姿を見られたくなくて、尚更離してくれとトンマンは懇願した。
彼をひと目見ただけで、心があふれてしまった。
(こんな土壇場で、尻込みしてしまうなんて……)
トンマンは唇を噛み締めた。

「トンマン」

咎める響きを持った声だった。呼ばれた薄い肩が、ビクリと震えた。

「お前は今、誰と話している。……顔を上げて、俺の目を見ろ」

どうしてそんなことを言うのだ。
あふれた心は、もう落ちてゆくしかないのに。

「トンマン、逃げるな。俺の知ってるお前は、どんなことがあっても目の前のことから決して逃げなかった。今のお前は、俺の知ってるお前じゃない」
「どうしてそんなことが言えるの? 逃げてるのはピダムの方よ。ずっと私を避けてた癖に!」 

--あぁ、堕ちてゆく。

「ピダムが私の何を知ってるって言うのよ。知らないでしょう。毎日、毎日、考えたくなくてもあなたのことばかり考えてる。今ピダムは誰といるんだろう、今誰と話して、笑っているんだろうって」

あなたの幸せを願った。ずっと、笑顔でいて欲しかった。

「ねぇピダム、どうして私以外の人をあなたは見詰めるの? どうして私にはあんなふうに笑ってくれないの!?」 どうして私は、あなたの特別じゃないの!?」

勝手に落ちてゆく涙が、長い指にさらわれた。
掴まれていた手首が解かれた。容易に離れられるのに、トンマンを見詰めるその眼差しから目を逸らすことができない。

「……それだけか?」

トンマンは己を映すピダムの瞳を見た。
頭で理解するよりも先に、ピダムの心の声が聞こえた。

「お前が溜めてたものは、それだけなのか」

黒曜の闇の奥に、焔が燃えている。
--あぁ、……あぁ。
やっとわかった。
あなたの言うとおり、私は子供でしかなかったのだ。
彼の眼差しが、言葉よりも確かなことを語っている。
今、ようやく私は知ることができたのだ。

ピダム、私のこと好きなの?

彼が笑った気がした。
どんな顔をしているのか見たいのに、幾度振り払っても目の前が滲んでしまう。
擦るな、と右手を取られ、トンマンはその指でピダムの輪郭へと触れた。

また一つ、雫が落ちた。
トンマンの双眸には、そのままのピダムが映る。
彼の薄い唇が、トンマンの耳に寄せられた。

やはりピダムは笑っていた。
その眦に、トンマンは見えない涙を見た気がした。


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