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書き始めたのが去年の夏ぐらいです。(現実逃避の最中w)
で、げんさん宅、mukugeさん宅、止めにマイマイ様宅でと、年始から悶えるものばっか見せて頂いて仕上げたのがコレです。

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私としてはとっても珍しいアルチョン視点です。
ドラマ基準って本当に難しいので、恥ずかしくなったら下げるかもしれません(>_<)


夜の濃藍は、その背で月と星の閃光を小さく砕いたのか。
光を纏った砂雪は、真っ直ぐにアルチョンへと降り注ぐ。
雪は彼の額を掠め鬢を彩り、睫毛に止まれば瞬き一つで頬を滑り落ち、時には逞しい肩口で遊びと、飽きることなく雪はさらさら、さらさらと流れてゆく。

「……ピダム、」

冷たくもやわらかい風が吹く。
白い息がアルチョンの頬をゆっくりと通り過ぎていった。
歴史はその名を神国の敵、女王に仇為した反逆者と呼ぶだろう。
だが雪は真実を知らぬ者たちの声を消し、彼の声をやさしく闇に溶かした。

雪は何も語らない。
血汐も啼泣もすべてを包み込み、ただ静寂を返すだけ。

だがアルチョンは、もう一度訊ねてみた。

「ピダム、もう陛下にはお会いできたか……?」


***


「アルチョン郎、ピダムを見かけませんでしたか?」

トンマンの手には二つの書状。
アルチョンは今抱えている懸案を思い返し予想を付けつつ、いつもはトンマンの傍を離れろ言っても離れないくせに肝心なときに主に居らず主の手を煩わせ、かつ一刻前に至っては意味のわからぬことをしていた男へと苛立ちを募らせた。

「……公主様。ピダムなら、四阿に居りました」
「四阿に?」

当然、気になるのはその理由だろう。
トンマンはアルチョンの応えを待っている。

「……なんでも、雪を待っているそうです。ピダムはそれを一番に、公主様にお届けすると」
「……雪を、ですか。私に……?」
「はい。ピダムはそう申しておりました」

怪訝に寄った眉間が開くと同時に、少しだけ下がった眦でトンマンは笑った。
その表情は「仕方のない奴だ」とも「まったく、あの男は……」とも言っていたが、トンマンが極稀にしか見せなくなってしまった公主らしからぬものだった。



小首を傾げて微笑むトンマン、金柑と橙色の衣裳、薄桃色の花たち。
今でもはっきりと映し出される情景に、アルチョンは目を細める。
どうしてだろうか。
この白い大地は、目蓋の裏に過ぎ去りし日々をあざやかに描いてゆく。



果たして、ピダムが待ち望むものは宵闇に訪れた。
アルチョンは特に何の感慨もなく、常のとおり纏めた書を携え主を探していた。--と、丁度向いから渡るのは、見覚えのある公主付きの女官である。
だが彼女たちの手には、公主の夕餉ではなく熱した酒と多めの肴。
思わずアルチョンは、彼女たちへ待ったを掛けていた。

「はい、アルチョン郎の仰るとおりでございます。公主様はピダム郎とご一緒に、暫し四阿でお過ごしになられると……」

ピダムはあれからずっと四阿にいたのか、
何故今公主様まで四阿にいらっしゃるのか、
そもそも、雪がいったい何だ云うのだ!?
……等々、理解し難い両人への衝動をアルチョンは嘆息一つで四散させた。

だがいくらトンマンが許したとて、その玉体を風雪に晒すなど臣下に在るまじき事態。忠臣のすべきこととは、まったくもって言い難い所行であることには違いない。

「私も四阿へ行く。寒気に中った公主様が病を得るなど、万一のことがあってはならぬ。湯の用意を怠るな」

『そう案ずるな。公主様が郎従をされていた頃は……』と、よく引け合いに出す科白でへらりと笑うユシンを脳裏で蹴飛ばし、ピダムへの説教を主軸にトンマンへの諫言少々を唇ですり潰しつつ、アルチョンの歩幅は次第に大きくなってゆく。
そんな彼が目指す四阿を捉えれば、軽やかな二つの声が冴える空の中で軽やかに舞っていた。

「公主様、いかがです!? もっとよくご覧になってください」
「如何も何も、お前が動く度に落ちてゆくではないか」
「申し訳ございません。では、今一度取って参ります」

トンマンは跳ねるように駆けてゆくその背中に聞こえていないだろう言葉をぶつけていた。
アルチョンも同じことをピダムへと言いたかった。
--どうしてそうお前は落ち着きがないのだ……!

「公主様! さぁ、存分に雪見を為さってください。私の黒衣で愛でる雪が一番綺麗だと、公主様は仰いましたよね!」
「……私は『黒は雪の色が映える』とは、言った覚えはあるが」
「同じことではありませんか!」

アルチョンは静かに首を振る。
……いい加減に、公主様を解放して差し上げなくては。

「憶えてらっしゃいませんか? 『何度も見たはずなのに、徐羅伐へ来て、初めて雪を見た気がする』」
「………。………」
「『雪とは、こんなにも美しいものだったのだな……』、そう公主様は仰ったのです」

トンマンは、何か言おうとして口を開いた。
けれどもその唇はわななきを止められず、瞬きを多くした双眸でもって溢れるものを逃がそうとしているかのようだった。
ピダムはもう、何も言わなかった。
彼は沈黙の内にすべてを語るほどに、あたたかい笑みを湛えてトンマンを待っていた。
……ピダムの腕の中のトンマンは、アルチョンが驚くほどに小さく見えた。


太陽が慌ただしく暇を告げると、冬の月はよりひっそりと静かな夜を連れてくる。
闇はゆりかごと為りより深い闇を作る。
重ねられた嘆息はその懐に抱かれ、忍び込んだ月灯と秘め言を交わすのだろう。

トンマンとピダム。公主と花郎。
トンマンが手にしたいもの、ピダムが希うもの。
彼らが共にいることが良いことなのか、それともそうでないのか……。
崇高なる主君に対し僭越にも当たる浅慮だと、アルチョンは首を振った。


そして神の血を受け継ぐ者は、成るべくして至高の存在へ。
その傍らで女王の影を誰にも踏ませまいと男が牙を剥けば剥く程に、あの日出会った軽やかに舞う声がアルチョンの記憶から薄れてゆく……。

長い年月が、ふたりを取り巻く見えないものが、明確な意思を持って変わろうとしていた。
すべての真実を知った後では、何もかもが遅すぎた。
アルチョンはすべてを受け入れたトンマンの横顔を、握りしめた拳で見詰めるしかなかった。



***



いつの間に傍に居たのか、袖を濡らしたシンガンに時を忘れて雪を浴びた手が取られる。
その繊手はアルチョンと同じ温度をしていた。
アルチョンの眦から涙が零れる。漸く彼は、泣くことを思い出したのだ。

次第に霞んでゆく白の中で、アルチョンは思った。
闇色の空から降る白は、言葉のない雪にそれでも想いを託した、忘れ得ぬ記憶の欠片なのか。
だからこそ雪は音を閉じ込め、深い闇を抱きながらも光を眩しく照り返すのか……。

雪が無骨な指に止まる。
落ちることなく留まり続けるその白は、冷えた指先の上にもかかわらず不可思議にほろほろと崩れていった。
そのゆっくりと下ってゆくひと雫と、最後に見たトンマンの頬に残されていた光の一筋がアルチョンの脳裏で重なった刹那、昭然たる想いが彼の躯を閃光のように突き抜けて行った。

眠りから覚めた女王は、再び長い眠りに就いたに過ぎない。
陛下には、何一つ後悔などなかったのだ……!


雪がまたひとひら、アルチョンの目前をふわりと舞う。
あの男のことだ。邪魔者がいないのをいいことに、天上で美しく咲く天花たちを、その黒衣の端にまで纏わせるのだろう。

「わかっているだろうな。陛下をまた寒気に中たらせでもしたら、この私が許さぬからな」

何も語らぬはずの雪が「余計なお世話だ」と憮然返し、小さく、ちいさく笑った気がした。


【天花は黒の空を舞う】



すんごいスッキリした顔で墓守してるなぁアルチョンって、とこから始まりました。
夢の話をトンマンがしたときに、ユシンを制して続きを促す姿にちょっと見方が変わりまして……。にしてもロマンチックwアルチョンになったなぁって感はあります(笑)
四阿の会話もシンガンとのやり取りももっと入れたかったのですが、これ以上長くすると飽きられちゃうんじゃないかと落としました。

いちばん書きたかったシーンが書けたので満足してますv
やっぱりトンマンにはピダム!りばさんの仰るとおり!大好きだって改めて思いました。
読んでくださって、ありがとうございました。

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