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2013.01.05 密灯の帳
どうしても書き終えてから更新したくて、予告してたのにもかかわらずすみません……!
お詫びにもなりませんが、ボツにしたドラマ設定を仕上げてみました。
これは予告を見て来て下さった方へのお礼ですので、2日程はUPしておく予定です。
お嬢さまを待っててくださった方、ホントに申し訳ございません……(_ _;)
(今、何時だろう……)

起こした身でトンマンは、もう一度溜め息を吐いた。
小さな光さえも飲み込む闇は慎ましく目を伏せ、神国を統べる女王に似つかわしくないとばかりに、その嘆息は誰にも拾われず消えていった。

静寂は寒さに似ている。
トンマンは乾いた咳を一つした。
控えているであろう女官は衣擦さえ響かせない。
夜は月ばかりを追い掛けているようで、訪れるはずの朝はいつも遠く。

懐かしい夢を見た。
あの砂漠の空は濃く高く、何も知らなかった"トンマン"を当然のように生きる自分がそこにいた。
小さな燭台の灯は、それでも愛しいひとたちの笑顔をやわらかく包んで。
荒海を渡る屈強な男たちと共に星を指せば、母の苦笑を子守歌にあともう少しだけと本の続きをせがんだ。

早く目を覚まさなければと思った。

寝台から身を起こしても、目に映るのは金・銀細工に翡翠の龍。
繊細な色硝子は燭台の炎を纏い、華やかさを競う華たちは真昼と変わらず優雅に微笑んでいる。
正しく女王の部屋だ。
己が居るに、相応しい場所だ。

だがここには、何の音もない。
……震える指をあたためてくれたひとは、もういない。
誰も、トンマンの傍には、誰もいない。

「……っ、」

思わず、口を吐いてしまいそうになった。
考えるよりも先に、名を呼んでしまいそうになった。

(どうかしている。私はまだ、夢の中にいるのか…?)

常とは違う己の衝動への戸惑いを払いたくて、トンマンは閉ざした視界でゆるりと頭を振った。
目頭が熱くなるのも、喉が締め付けられて苦しいのも現実ではない。
夢から覚めれば、この記憶も忘れる。

(ならば、夢の中ならば、いっそ……)

じわりと睫毛から溢れてゆくものを認めたくなくて、トンマンは目蓋に拳を押し付けた。
この込み上げてくるものに名前を付けてしまえば、きっと自分は弱くなってしまう。

心を持ってはいけない。
私情に流されてはいけない。
こんな"王"ならざる感情を抱いては、いけないのだ。

「陛下、どうなさったのですか!?」
「ピダ…、ム…?」


***


宙に浮いた白い指先が、微かに震えている。
ピダムは迷わずその手を掴み、確りと両手に閉じ込めた。
繊手は氷のようだった。

胸騒ぎがしたのだ。
誰かに呼ばれた気がした。早く行かなければと、気ばかり焦った。
杞憂ならば良い。
ひと目、眠っているであろう姿を見られるのならばそれでいい。
髪を纏めるのも煩わしく、ピダムは簡素な黒衣のままトンマンの元へ急いだ。

そして今、目を見開きどこか白昼夢から覚めたばかりに見える面持ちが、増々ピダムを不安にさせる。

「陛下、頭が痛むのでしたら、侍医を……」

トンマンは小さく否、と呟いた。

「……ピダム」
「はい、陛下。ピダムはここに居ります」

囁きにも似た呟きに、ピダムは努めて微笑みの形に頬を引き上げた。
この紡ぐ音が言葉にできぬこの想いと共に彼女の許へと届くのならば、ピダムは生涯声を失くしても構わないとさえ思う。
四つ並ぶ桜貝にゆっくりと唇を落としていった。

「擽ったい……」

力の抜けた細い肩に、ピダムの眦も漸く解ける。

「さぁ、陛下。もう少しお休みください」
「可笑しなことを言うな、お前は……」
「陛下……?」

ピダムの双眸に困惑が落とされた。
そんなピダムの頬を、大きな手のひらからそっと抜けだした白い手が、ひた、と当てられた。その指先はまだ少しだけ冷たかった。

「私は、……私たちはまだ夢の中にいる。……そうだろう?」

トンマンの微笑みは、儚く、淡く……、頬に触れる感覚さえ無ければ今にも消えてしまいそうで……。
何時になく頼りなげな肢体を前にし、もっと輪郭を捉えようとピダムはその身を乗り出した。
仄かな灯火が夜をこの一室に封じ込め、二人の眼差しの意味を変え、吐息の色を変えようとしている。

女は物言わぬ目で語っていた。
--許す、と。

「正しく陛下の仰るとおりでございます。……私たちは、醒めぬ夢の中にいるのです」
「……うん。あぁ……、ピダム。ピダム……」
「はい、陛下。私はここに……。陛下の、貴女のお傍に--」



欠けた月が差し伸べる影に隠れて、トンマンは小さく泣いた。
僅かに震える指を眠る男の髪に伸ばせば、一筋の雫が青白い頬を濡らしてゆく。

けれども、そこには心があった。
きっと彼女は、自覚すらしていないのだろう。
弓なりの眼差しに彩られたやさしい笑みを、柑子色の仄かな灯がやわらかく照らしていた。


【密灯の帳】




お粗末な出来ですみません。
お仕事行ってきまーす。
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