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げんさん、こんばんは♪ 
こちらこそ、いつもコメントありがとうございますv
もう読み終わられましたか?げんさんの感想をお聞きするのが楽しみです(´ω`)ノシ

さてさて転生設定第二弾、朝鮮王朝時代です。
あんまり詳しくないのに、お嬢様で詰まってるときに勢いで書いちゃいましたww
ツッコミ覚悟でのUPですー(^_^;)



 人で溢れる市を軽やかに、それこそ飛ぶように駆け抜けた。
 小さな躯から生み出される旋風は流れに乗って止まることなく、遂にピダムは目的の地へ辿り着く。
 
 彼は拭いきれぬ罪を犯していた。
 
 だが彼が疾走していたのは、何も追われていたからではない。
 その罪は、この幼い躯が償うものではなかった。
 彼は今生ともう一つの生、所謂『前世の記憶』とやらを持っていた。断片的な酷く曖昧なものだったが、今生で為さねばならぬことは、いつだって瞼の裏に焼き付いていた。それが記憶が受け継がれた理であり、今も彼を急き立てているすべてだと、疑うことすらしなかった。

「…っ、トンマン!!」

 その小さな横顔に、ピダムは震えた。一歩と足を進めるに連れ、きょとりとした顔がピダムの双眸と心を占める。
 僅かながらも鮮明に残っている記憶と変わらない、美しい瞳がそこにあった。

「あの…?」

 小さな手で抱えた水桶を、ピダムはそっと降ろしてやる。細かな傷を多く帯びた指をしていた。トンマンが感じたであろう痛みを呑み込むように、ピダムは引こうとする繊手を丁寧に己の両手で包んだ。

「今まで待たせてしまってすまなかった。さぁ、私の屋敷へ行こう」

 漸くだ。漸く、夢が現のものになる。





「あ、あのっ! 恐れ入りますが若様、すぐに行首様をお呼び致しますので少々お待ち頂けますか?」

 嵐のように突如現れた珍客に手を引かれ、トンマンは目を白黒させた。初対面である筈なのに、この男は何を言っているんだろう。何の騒ぎかと集まってきた下働きの仲間たちにトンマンは目だけで助けを求めるが、当然応えられる者などいる筈もない。

「何をしているのですトンマン、早く支度なさい。若様をお待たせしてはなりません」
「行首様! 何を仰るのですか!?」
「これはこれはピダム様。この者への格別なお引き立てを頂き、心から感謝致します」

 最奥の部屋から現れた女主人に向け、ピダムは満足気に頷いた。トンマンは信じられないものを見た気さえしていた。一体この二人は、何を言っているんだろう。

「お前は本当に運がいい。これからは誠心誠意、ピダム様にお仕えするのですよ」

 言われるままに追い立てられたトンマンは、ある噂を思い出した。それがまさか己の身に振りかかるとは、想像すらしていなかった。

(それで、その両班の方に見受けされるのですか? 旦那様としてお仕えするのですか?)
(馬鹿ねぇ。生きる場所が変わっても、私たちは卑しい身分は一生変わらないのよ)
(見習い妓女の一人や二人、両班の子息なら安い物なんでしょうね)
(そして買った女に飽きたら、また妓楼に戻せばいいだけの話だものね)
(ここに戻ってこられるだけマシだわ。両班のお方たちはきっと、私たちの命なんてそこらにいる虫と同じよ。だって--)
 
 小さな包み一つを胸に抱え外へと飛び出したトンマンは一言世話になったとだけ告げ、誰の顔も見ないように下を向いた。そうして揚々と進む『新たな主』の影を踏みつけるように後ろへと付いた。
 こんな形でここから去ることになるとは……。

 穏やかに微笑む母を見送り、自らこの門を潜った。処方してくれた薬はとてもよく効いたが、同時にとても高価なものだった。無愛想だが腕のよい町医者の先生は、『金はいつでもいい』と薄く笑った。到底、返せる術のないトンマンにである。
 己の身を削ってまで母を案じてくれた恩人の為にできること。そして何よりも、大好きな母とトンマンの今生を縛りつける確かな約束を探し求めた結果だった。

(……何が何でも、絶対生き延びてやる)

 話のとおり、両班にとってはこれも他愛のない遊びの一つなのだろう。
 身勝手極まりないその振る舞いが、トンマンを奮い立たせた。

「なぁなぁ、トンマンは何が好きだ? 夕餉には魚を用意させたが、嫌いなら他のものにしよう」

 満面の笑みを向ける『ご主人様』は外見で判断する限り、トンマンとそう変わらない年齢だろう。だがその顔は無防備過ぎて、あまりに人懐っこいそれだった。トンマンはこの策の成功を確信した。

「若様は何を好まれるのですか?」

 まずトンマンは二つの罠を仕掛けた。使用人が礼を執らず堂々と主人の目を見て話し、問われた問いにも返さない。更には逆に問いを返す無礼振りだ。ここでこの贅沢に慣れきった、虎の威を借りた子供が癇癪を起こすのならば話は早い。

「私か!? あのな、私は鳥が好きだ。昨日食べた菓子も美味かったが、鳥は毎日食べても飽きないな!」

 ……結果。先ほどの笑みに、拍車と輝きまで増してしまった。

「……そうなのですか。それは残念です」
「えっ、どうしてそんなことを言うのだ!?」
「私は、鶏肉が大嫌いなのです」
「えぇっ!? そっ、それは本当か!?」

 勿論嘘である。だが厳密に言えば嘘でもない。なにせ肉など、易々と賤民が口にできるものではないのだ。
 だがこの若様の驚きっぷりは一体なんなのだろう。「あんな美味いものを…」とぶつくさ呟いているが、そこまで世間知らずなのだろうか?
 それにしても随分残酷な遊びだと、トンマンは眉を寄せた。夢のような生活を突如与え、主人の気まぐれ一つで即取り上げる。夢から醒めたときの現実との落差さえも、両班たちは酒の肴にするのだろう。

「はい、然様でございます。それから私は、魚も嫌いです」
「駄目だ! 何を言っている!!」

 やっとトンマンの思い描いた反応が返ってきた。
 さぁ、無礼だと言って突き返せ。己の身分を顧みず、礼儀を知らぬ無礼者だと言い放つのだ。

「好き嫌いは駄目だ!! それだと大きく成れないではないか!」
「………。……はい?」
「そうか! 手も腕もこんなに小さくて肩だってこんなに薄いのは、食が細かった所為だったのか。案ずるな、そなたの偏食は私が治してやるからな!」

 気安い友のように肩を叩かれ腕を摩られ指を取られ、さすがのトンマンとて呆気にとられてしまった。「ご心配には及びません」と一歩引いたものの、それでも笑みを絶やさぬ顔に驚いた。
 それにしてもトンマンが頭を抱えたのはこの考え方だ。到底理解できるものではない。

「……若様。恐れながら、私から一言申し上げます」
「うん、何だ?」
「若様はもう立派な大人で御座います。このような身をお相手になさるとはいえ、節度ある振る舞いをなさってください」
 
 ならば、説教もどきに諌めてやる。トンマンは口端をそっと上げた。両班は矜持を傷つけれられることを何よりも嫌うはずだ。

「そっ、そうだな。私としたことが……。女人に初い日から軽々しく触れてはいけなかったな……」
 
 トンマンはがっくりと項垂れた。これまでの経験がことごとく通じない。織り交ぜた嫌味は捻じ曲げられ、都合の悪い部分は流されてしまう。
 
「……あの。どうして私の手を握ってらっしゃるのですか…?」

 そしてこの若様は殊勝な応えとは裏腹に、行動はまったく改める気はなさそうだ。

「うん。トンマンの手を握ってると、なんだか嬉しくなるようだ。それからな、トンマン。自分を卑下するような言葉を言っちゃ駄目だ」
「……離してください。私は尊い両班の方にお仕えする、卑しい賤民に過ぎません」

 尤も、こんな横柄な態度の使用人などいないだろうが。トンマンはさっと引き抜いた指を、後ろに隠した。

「身分や産まれなど、どうでもいいことではないか。トンマンは、トンマンだろう? 私の大切な人だ!」

 幼い円い頬が撓み、それはそれはふくふくと愛らしい笑顔が向けられた。
 トンマンは溜息をついた。この世は生まれ持った身分がすべてだというのに……。心底、思考を理解しかねる。だが、悪い気分ではなかった。どちらかと言うと、その逆のそれだった。
 「面白い玩具だという間違いでは」との苦笑交じりのトンマンの突っ込みは、夕陽を弾いてはしゃぐ耳に届くはずもなかった。


【あなたへと伸ばした指先が触れたら、そのときは】

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