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さてさて。今回は4話目ですね。
楽しみにしてくださる方がいるのか果てしなく不安ですがw
あきさん、げんさん、mukugeさん、それに拍手をくださった方々に感謝しつつ進めたいと思いますv

完結しましたら、豆トンですねー。
って、今日不吉な噂を耳にしました。あ、ご安心ください。私個人のことです。
先月受けた試験なのですが、ボーダー越えてても『足切点』というものがあるらしいです。
( ゚∀゚)・∵.なんじゃそりゃ~!!
合格率を上げない為なのか……。
りばさんちで付け加えてたように「大丈夫でしたよ~」と言ったのも、どうにも合格通知を見ないとまだ実感できないってのもありましたが、そんな隠しカードを今オープンにするとは……(´Д⊂


なんとなく時間を共にする二人のルールが出来上がろうとしている頃。
夕食は午後6時半から7時の間にはトンマンがどこかしらの研究室から出てくれるのに、今日に限っては遅い。もう8時を回ってしまった。
集中している最中を邪魔はしたくない。けれど、遅い夕食は内蔵に負担が掛かる。
ピダムは遠慮がちに扉を叩いた。

「あぁ、すっかり遅くなってしまったな」
「はい、ご主人さま。ピダムもご一緒するのですから、食事の時間は守って頂かないと」

これくらいの軽口は当たり前になっていた。
むしろ飾のない言葉の方が、トンマンは笑みを浮かべることが多かった。
分家の人間は数多くいれど、こうしてトンマンへ気軽さを持って接することができるのはピダムだけだろう。この状況の擽ったさに、ピダムの頬は緩んだ。

「そんなにご熱心に、何を見てらっしゃったのです?」
「あぁ、これはな」

手垢と薬品と薬草に汚れた辞典の最終ページ。
トンマンは何度も触れたであろうそれを、そっと撫でた。

「私が今、欲しくて堪らないものだ」

『蒼緋[ソウヒ]穫花は非常に困難である』
隣に星が5つ添えられたそれは、下調べしてきたピダムも知らなかった品種だった。
トンマンの眼差しは鋭いもので、手に入らない焦燥がピダムにも感じ取れる程だった。

「ご主人さま。あの、一つお訊きしても?」
「何だ?」
「ご主人さまは、薬を見つけるためにこの地へ来たとお聞きしました。どうしてその難病を直したいと思われたのですか? 婚姻も拒絶されてまで、そこまでこの病に拘るのです」
「……そうだな。お前が私の従者になった以上、お前には知る権利がある」

誰も知り得なかったトンマンの真意。
猛反対を押し切った先での留学。やっと戻ったかと思えば、国一番の薬務大学への編入。今はその研究室に籍を置き、休学という形でこの村で研究に明け暮れている。
しかしその経緯を、ピダムの周囲で知る者は一人もいなかった。

「だがその前に、私もお前に訊きたいことがある。お前の問いは、その後に応えてやる」
「…はい。何なりとお訊きください」

固唾を呑んだピダムに、「そう身構えるな」とトンマンはフッと笑った。
トンマンはこういうタイミングを外さない。
ピダムから肩の力が抜けた。

「お前が目標としているものは何だ。お前は将来、自分がどうありたいと願っているんだ?」
「はい。それは勿論、当主さまの親衛です」
「近衛を越えて、親衛か。なれると思うか? お前が」
「お言葉ですが、前年の比才でもわたしに敵うものはおりませんでしたし、事実わたしの師も、わたしならばトンマンさまの側近くでお仕えでき得るとお認めくださいました」
「……もう一度だけ訊く。私は、お前に訊いてるんだ」

ピダムは息を呑んだ。
これまで繰り返してきた耳障りの良い薄っぺらな常套句では一蹴されてしまうどころか、トンマンを失望されてしまいかねない。
だがほんの少しの不安の先に、どこか沸き立つ心臓が心地よい。ピダムは吸った息を、なおさらゆっくりと吐き出した。

「自信なら、あります。親衛は分家の者が望む至上の地位。このわたしがお仕えするのです。ならば、わたしの主にもそうあって頂かなくては」
「ふぅん。だから今すぐこんな研究なんぞ止めてさっさと婚姻し、本家に戻れと?」
「その通りです! ……あっ!」

--しまった。まずは信を得て、少しづつ懐柔してゆく予定だったのに。
慌てて口を噤んでも、もう遅い。
いとも容易く、ピダムの意図はトンマンに知れてしまった。

「まぁ妥当に考えて、それが一番の近道ではあるな。後嗣云々ではなく己の出世の為と、こうもハッキリ言われると逆に好感さえ持てる。……実のところ、お前たちが見落としてる事実もあるのだがな」

声は怒ってはいない。
むしろ好印象だったのかと、ピダムは恐る恐るトンマンを伺った。

「いいだろう。では私の番だな。私が幼い頃誘拐され、僅かな間だったが砂漠にいたことがある。知っていたか?」

初めて語られるトンマンの過去に、ピダムは活目するしかなかった。

「犯人達の車が故障したらしく、周りは一気に騒がしくなった。「明日までここにいろ」低い男の声がして、走り去る車の音。その後は一切の音がなくなった。目隠しが外れると、大きな月と見渡す限りの砂の丘があった」
「それで、どうなさったのですか?」
「砂漠といっても、星の位置を頼りにできる。だが集落を見付けても犯人達の息が掛かっていたらと思うと、助けを求めることはできなかった。歩いて、歩いて……。なんとか助かり、そして今の私がある。命の恩人を助けたいと思うのは、当然の話だろう?」
「ではご主人を助けて下さった方が、その難病に罹ってらっしゃるのですね」
「そうだ。私はなんとしてでも、あの人の病を治したい」

トンマンの話は事実だが、伏せたままにしておきたい真実もあった。
第一に誘拐されたのはトンマンだけではない。乳母であるソファも一緒だった。
両手の枷が外れないトンマンを背負い、それでもトンマンを気遣い続けた。自分で歩けると言い張るトンマンに、「その挫いた足では、犯人に追いつかれてしまいますよ」と優しく諭して。
主でありながら、ソファの助けになれない己が不甲斐なかった。
砂漠の夜風は冷たく、砂は重くなる脚を深く抱きとめようとするばかり。

「ソファ、お願い。ここで私を降ろして。ソファ一人で行って! 私なら大丈夫だから。ここでソファが戻ってくるの、ちゃんと待ってるから!」
「……もう少しですよ、お嬢さま。あと少しで、きっと人がいます。もう少し行けば、旦那さまと奥さまがお迎えに来てくださいます…から、」
「お願い、私を降ろして! どうしてそんなに無茶するの!? ソファ、お願いだから…!」
「あなたは…、私の希望なのですよ、お嬢さま」
「え…?」

振り向いたソファの横顔は、疲労の色が濃く刻まれていた。
だが口元には見慣れた微笑み、瞳は月の雫が美しく灯っている。

「私が初めてお目にかかったのは、お嬢さまがお産まれになって間もない頃でした。代々直系の血族の方々にお仕えするには、分家の中でも取りわけ血統が優れている者です。地位の低い私は、畏れ多いと辞退しようと致しました」
「……うん」
「でも私と目が合ったあなたさまは、嬉しそうに、とても嬉しそうに笑ってくださったんですよ。私の指を掴んで、離しませんでした。……その時、私はこの子を守ろうと誓ったのです。臆病者でそそっかしいこのソファですが、あなたをお守りできると。そう信じさせてくださったのは、他でもないトンマンさまなのですよ……?」

くしゃくしゃのトンマンの頬から、静かに一つ涙が落ちた。

そうして無事戻れたものの、ソファはよく転び、同じく高熱を出すようになった。
秘密裏に診せた医者では、病が特定できなかった。
病の本質が掴めなければ、効果的な治療はできない。
現状を維持するための努力を続ける他に、手立てが見つけられなかったのだ。

トンマンの決意は、より固いものになった。

『たかが乳母』と枠組みを付ける者たちには、到底理解されないだろうとわかっていた。
その上で受け入れてくれた両親と姉を、批評の的にもしたくなかった。
だから先手を打った。『変わり者』だと自ら名乗った。
すべては、ソファを病から解放するために。
ソファさえも知らない、トンマンの決意だった。



「どうだ? 私の真意がわかったところで、お前の目的が無理なものだとわかったか?」
「何を仰るのです。ご主人さまが薬を作られ恩人の方の病が治れば、わたしの目的も同時に果たせるではないですか」
「薬はそう簡単にはできない。第一、私は婚姻はしないと言った筈だ」
「わからないではありませんか。もしかしたら明日には実験が成功し、薬が完成する可能性だってある筈です。そしてご主人さまの恩人の御方も、無事全快されることでしょう。そうすれば、ご主人さまのお気持ちだって変わらないとは言えないのでは?」
「……お前、口がよく回ると言われないか?」
「心外です。わたしは偽りなく思ったことを述べているだけです。ではご主人さまの未来の為に、一刻も早く薬を完成させましょう!」

ピダムは鼻息荒く、力拳を作った。
トンマンはその様子を、胡散臭げに見遣る。

「で、その足で私に婚姻しろと?」
「はい! それでこそわたしたち二人の目的が合致する、素晴らしい目標ではありませんか!」

『新薬』への道程がいかに険しいものか。
姉が降嫁した次期当主空席のこの現状において、トンマンの『婚姻』がどんな意味を齎すのか。
目の前の少年に有りの侭に言ってしまえば、果たしてそれでも彼は同じことが言えるだろうか。
トンマンはゆるりと首を振った。

「話は終わったな」
「はいっ! …って、何作業再開なさってるのですか!? 無理をなさってご主人さまがお倒れでもしたら、薬の完成が遠のいてします。夕食はきちんと摂って頂いてこそ、作業効率が上がるというものです」

促される笑みに応じつつ、トンマンはある決断を下そうとしていた。
--ピダム。お前の希みは、私では叶えられないんだ。
思わず目の前でサラサラと揺れる髪に釣られ頭を撫でてやれば、「子供扱いはお止めください」と下を向くトンマンの唯一の従者。
出会ったあの日から変わらない、その照れたようにはにかむ笑顔が愛しかった。

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