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2012.05.12 不可視の爪先
お手紙を書くのって楽しいです。
有り難いことに、私が思っている以上に伝わってて嬉しいなぁと感じることが多くて、拙い言葉から汲み取ってくださる方々に感謝しきりですv

で、私の直したいところはどうしても長くなってしまうところなんですよねー。
サラッと書けない。どうすれば皆様のような纏まったコメントができるのでしょう。
今も省けるところは切って貼ってしてますが、それでも長い……。お付き合いくださる方のことを考えて、もっと精進したいと思います。

続きからは26話、ピダムがトンマン公主を唯一の主と決めるまでの妄想ドラマSSです。
先日DVDを見返して、こんなことがあったらいいなぁというぬるい妄想ですw
大切な功労者の一人だから、食客扱いだよな~と勝手に決めつけております。
ほぼピダムの一人語りですよー。

 
 多少でも医学の心得があることは、そんなに驚くことなのか。
 ピダムは驚きを隠せないでいる女官を訝しみながらも、『すぐに医官様をお連れする故に、お前は公主様から目を離すでないぞ』との仰せを、下げた頭と顰めた眉で見送った。

 いつもの癖で早く目が覚めたからと宮殿をぶらつきつつも、偶々現場に居合わせた自分を自分で褒めてやる。
 宮殿に仕える奴らは山ほど居るくせに、肝心なときにいったい何をやっているのやら。お前ら女官が確り諌めないから、トンマンは無茶を繰り返すんだろう……と考えたところで、まぁこの『公主様』じゃ何言っても無駄か、と短いながらもこれまでの活躍振りを省みて、彼は吐息一つで溜飲を下げた。
 
 傍らにある丸椅子を引き、豪奢な寝台に沈んだ青白く透ける瞼を見守る。思えばこんなに近くでトンマンを--否、『女』を、しかも眠っている肢体を見たことはなかった。
 なだらかな弓の形をした頬はふっくらとすべすべしていて、その色からして餅みたいだなぁと呑気な感想を抱いた。

(ふぅん、こんなところに黒子があるや……)

 何気なくつついてみれば、綿のような柔らかさに慌てて指を引っ込めた。
 すると、長い睫毛が震えた気がした。

(お、気がついたか?)

 薄く開いた双眸は何度か瞬きを繰り返すと、すぐさま何かを探すように右へ左へと彷徨う。どこか心細くも感じられるその眼差しを自分に向けたくて、ピダムは声を上げた。

「なぁ、気分はどうだ? どこか痛むところはあるか?」

 やっとこちらを見上げた瞳を手にするも、眼の奥に灯る光はどこか頼りなげで……。
 ピダムは咄嗟に、長い袖に隠されている手首を晒した。自分のものと比べその色の白さと華奢さにまたしても鼓動が高まるも、慣れた手つきで指を当てる。

(一、二……)

 目の前でトンマンが倒れたとき、刹那ではあるがピダムは動くことができなかった。そして慌てて抱き止めるも、力なく落ちた細い首筋や、さらさらと指の間を音もなく滑ってゆくぬばたまの一筋に、心臓が、息が凍りついてしまったような錯覚を覚えた。
 それでも今と同じように脈を取れば、その一拍毎にピダムの落ち着きも増していった。

(最初に診たときよりも熱は変わらないが、気力が下がってるのが気掛かりだな。釣藤鈎、鹿子草、酸棗仁、矮鶏唐棕櫚……加味帰脾湯よりも柴胡加竜骨牡蠣湯か。それに紅蔘があれば……)

 それまでされるが侭に弛緩していた繊手僅かに動いた。かと思えば、きゅ、とピダムの指を掴んでくるではないか。無骨な指が、桜色にも似た美しい爪に包まれている。
 突然のことに思考を止めた頭をハッと戻せば、そこには目を閉じて入るが、ゆうるりと微笑む顔が待っていた。
 --何か言わなければ。
 短く吸った息に、喉が戦慄く。その笑みも指もこのざわつく胸の理由も、きっと彼女は知っているはずだ。

「しっ、心配すんなって! これくらい、すぐに良くなるさ」

 けれど口を突いたのは在り来たりな応えで。
 それでも呼応するように、握られた指の力が少し強められた。その爪先は、更にピダムの心に小石を投げ込むこととなる。美しい波紋を描き落ちてゆく小石は、彼の奥底に知らず沈下していた澱を幾つも舞い上げた。

「なぁ、お前--」
「失礼致します、公主様。主治医様をお連れ致しました」

 ピダムが空気を震わせた言葉は、女官が掲げた燭台の炎によって刹那にして灼かれ四散していった。
 


 美しく整えられた竹林の庭をぶらぶらと歩く。
 遠くの空は、もう夜を追い立てる準備をしているようだ。孤高の月と煌く星々を、裳裾を広げた太陽が次々と呑み込んでゆく。

 --面白そうだから、ここまで付いてきた。
 このままの日々のように迎える、平穏だが緩慢な朝。それを一変させる、予測の付かない興奮に満ちた夜と、自分の存在を世に知らしめる為の朝を迎えたかったのだ。

(わかってる。俺がここにいる一番の理由は、何なのか……)

 あの笑みとて特別な意味など何もない、もしかしたら彼女は覚えてすらいないことかもしれない。傍に居たのがピダムであったことさえ、トンマンは気づいていないのかもしれないのだ。
 ……なのに、どこかで何かを期待している自分がいた。

『お前は、そのままでいろ』

 そんなことを言われたのは初めてだった。
 これまでピダムは恐れを知らずに生きてきた。己の技量には絶対の自信を持っている。とはいえ、では自分自身を好きかと問われれば、果たして躊躇なく「諾」と答えられるであろうか。

 あの小さな爪が握った右手を広げてみる。当然、肌の柔らかさも触れた熱もとうに失せている。
 だがあの真昼の月が太陽を隠したように、こうして幾度巡る陽光がすべての空を覆えども、その事実は消えることはない。決して、消えることはないのだ。

「……まったく。敗けるつもりもねぇけど、勝てる気もしないんだよなぁ」

 この俺が……とひとりごちながらも、ピダムはまたのんびり歩き出した。フッと吐き出した息で蒼黒を暁に染める朝陽を見遣り、眩しそうに目を細めた。


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