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2012.02.18 銀砂幻晶
雪繋がりの、夢のお話です。
妄想を詰め込みすぎてぶっ飛んだ内容ですので、どうか緩く読み流してくださると嬉しいです。

りばさん、げん様、どうもお待たせ致しました。
(お名前を出してしまってすみません!でも本当に変な話ですので、もし感想書かなきゃ、なんて思われていないと良いのですが(><)



 とさり、と何か軽い物が落とされた音がした。
 碌な金銭すら持たぬ子供からでも、奪うものがあるらしい。否、子供だからこそ狙われたのだろう。昼間、市場にいたときから目を付けられていたのだ。
 物取りだと推察した私は、間もなく襲い来る敵を見極めようと粗末な小屋の戸を自身の目と耳に転じさせた。
 僅かな殺気すら漏らさぬ気配。背を冷たい汗が伝った。それとも師からすれば、殺気を感知できる能力が未だ備わっていないということであろうか。
 ……留守一つも守れぬなどと、思われたくはない。
 枕元に忍ばせた短刀に手を伸ばす。
 そして意を決して戸を開いたその刹那、飛び込んできた眩光に目を疑った。

 大地を切り取ったが如く浮かび上がるのは、間違いなく降り注ぐ月の雫で紡いだであろう真白い衣。
 その誂えに相応しく金糸が繊細な弧を描き、控えめに輪郭をなぞりつつ隅々まで華を咲かせている。
 胸元から覗くのは、その衣よりも光を放つ白磁の肌。
 扇形に広がった艶やかな黒髪が風に舞う粉雪を纏えば、それは今まで見たこともない煌びやかな金細工へと変わった。
 額で弾けた月灯は銀砂となり伏せられた長い睫毛へ織り込まれ、同じ色の肌をさらさらと滑ってゆく。
 この世のものとは思えぬほどの、美しい情景。--とても美しい、女人だった。

 目覚めた女は名乗らなかった。起き上がろうとする上体を、慌てて留める私を尻目に「お前が好きな名を付けろ」と続けた。女人にしては愛想のない口調。けれどもどこか柔らかく、私の心を包み込むようだった。
「浮かんだままのそれを、言ってくれれば良い」
 どこか楽しげなその声に考えに考えて、私はソリと決めた。
「雪姫と書くのか? 私には勿体無い名だな」
 驚いたような表情に、高揚した気分が沈んでゆくのを感じた。気に入らなかったのだろうか。それならばと、最初に浮かんだ名を告げようとした--が、なんとなく口を開く気になれない。継ぐ言葉を失えば、私はもう俯くしかなかった。どうして、会って間もない女人をここまで気に掛けてしまうのだろう。
 「ありがとう。良い名をくれたな」
 女人の--雪姫の薄紅色の唇が、ゆうるりと引き上げられてゆく。
 「当然でしょう、私が付けた名なのですから!」
 心をざわつかせた不快感はすぐに消え失せた。もっと雪姫の笑った顔が見たいと思った。

 この一刻だけで、何度も雪姫は熱に魘された躯で「ありがとう」と口にした。
 余りにも言うものだから「私がしたくてしてるのだから、礼など言わなくてもいいんです」と、また薬湯を掬った。しまった。少し乱暴な物言いになってしまったかもしれない。
「……私に礼を言われるのは、嫌か?」どこか沈んだ声。
「そんなことあるはずないでしょう!」
 ただ少し擽ったい心持ちなのです、と仕方なく吐露すれば、雪姫は小さく柔らかな声と待ち望む笑顔を見せてくれた。私は鷹揚に頷きはしたものの、夜闇に吸い込まれていった言葉はよく聞き取れてはなくて。何を言ったのかが知りたかった。
「私はな、お前の心を感ずるたび、こうして礼が言いたいんだ」
 陽溜りに似た微笑みに、抱いだ問いはどうでもよくなった。雪姫が笑った顔を見るだけで、私の心に温かな熱が満ちてゆく。……しかし今雪姫が声に混じらせたものは、嬉しさだけではなかった気がする。
 私はそのもやもやとするものを掴み、雪姫の中から放り投げたかった。
「……もう一口、呑めますか?」
 けれど小首を傾げてゆったりと微笑む顔に何も言うこともできず、結局私は雪姫に釣られるように微笑みを返したのだった。

 雪姫の吐く息は、未だ浅く短い。
 お師匠様ならば、必ずこの病を好転でき得る術があるだろう。だが、明日にならなければ戻らない。蓄えてある薬草をありったけ使っても、これ以上すべきことが見つけられなかった。額の汗を拭き、熱を帯びた布を取り替える。苦悶が浮かぶ眉に、私のそれも知らず寄った。
 --けれど、これは好機だと言う声も私の中でずっと響いていた。この様子では、今夜はどこへも行けないだろう。
 手拭いを浸しながら、私はまじまじと雪姫を見詰めた。揺れる小さな灯りよりも、光を従える月白の横顔。
 私は確信を深めた。雪姫が落とした羽衣がどこかにあるはずだ。夜が明けてしまう前に、探しに行かなければ……。私は天上にあるべき光を、永遠に地上へ縛り付けてしまいたかった。
 雪姫へと最初に思い浮かべた名は、ミョンオルだった。けれど”明月”としたならば、恋しくなった故郷へと還ってしまいそうで嫌だったのだ。私は頭を振り、その発想ごと思考の隅へと追いやった。
 
 冷たい水を絞り、再び雪姫の額をそっと拭いてやる。ゆっくりと開かれた瞳は、しっとりと濡れていた。だがそれは短い陽光を一杯に浴びる水面のような輝きで、私はいつまでも見詰めていたいとさえ思った。
 やはりこの方は仙女様なのだ。雪姫は私が美しい思うものをたくさん持っている。
「お前は、とてもやさしい子だな」
 頭を撫でてくれる繊手に思わず触れてしまった私の指は、咎められなかった。
「この手に触れるだけで、痛みが消ゆくようだ……」
 そうしてそっとを包んでくれた温もりは、私が唯一触れても良いものと比べ、細くて柔らかくてとても小さかった。雪姫の向けてくれる手も声も言葉も眼差しも嬉しくて、嬉しいのに息が詰まりそうになる。私は雪姫に心配を掛けてはいけないと、溢れそうになる涙を瞬きで逃した。
「私がずっと傍にいて差し上げます。どうか、ご安心なさってください」
「うん。ありがとう、ピダム……」
 そうしてゆっくりと吐かれた呼気で、雪姫は心から安堵した笑みを見せてくれた。撫でてくれる手はどこまでも温かく、日向でまどろむような心地よさで。
 だから気づかなかった。私は一度とて、名乗ってはいなかった。




 瞼の裏に朝の訪れを感じ、ピダムは弾かれたように飛び起きた。跳ね続ける鼓動に任せて覚醒した両目は、小屋の中を忙しなく動きまわる。
 そしてふと気づく。どうして、決して眠ってはいけないなどと思ったのだろうか。
 昨日と同じ夜明けは、別段変わりない顔をしていた。

「今戻ったぞ、ピダム。留守中、変わりなかったか?」

 諾、と応えた弟子を見て、ムンノは朝陽に照らされたその顔に手を伸ばした。

「怖い夢でも見たのか? 泣いているではないか」
「……わかりません。何も、覚えてはいないのです」

 僅かに漂う仄甘い残滓は、濡れた頬を撫でる風花と共に舞い踊り遠い蒼穹に四散してゆく。
 どこかそれを追うように目を馳せたピダムは、師の呼び声に慌てて振り返った。


銀砂幻晶  end.


『誓理』でなく、ピダムが考えた『雪姫(ソリ)』と印象付けたくてカタカナ表記から修正しました。
呼び掛けや同衾wの場面もあったのですが、蛇足過ぎて端折りましたww
いやもう変な話でホントすみません!(><)

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